参考資料集

「伝統建築工匠の伝統技術」が無形文化遺産登録へ

投稿日:2020年11月17日 更新日:




日本が誇る文化遺産を受け継ぐ重要技術

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関は、2020年11月、世界最古の法隆寺に代表される日本の伝統的な木造建築を修復する職人の技術をまとめた「伝統建築工匠の技」について、無形文化遺産に登録するよう勧告しました。

ユネスコ無形文化遺産の国内例

2018年登録「来訪神(仮面・仮装の神々)」

2018年登録「来訪神(仮面・仮装の神々)」

世界の無形文化遺産は463件、日本国内の採用は21件あります。

2008年記載

能楽
人形浄瑠璃文楽
歌舞伎

2009年記載

雅楽
小千谷縮・越後上布
石州半紙((注)2014年に「和紙:日本の手漉和紙技術」として拡張記載された)
日立風流物(茨城)((注)2016年に「山・鉾・屋台行事」として拡張記載された)
京都祇園祭の山鉾行事(京都)((注)2016年に「山・鉾・屋台行事」として拡張記載された)
甑島のトシドン(鹿児島)
奥能登のあえのこと(石川)
早池峰神楽(岩手)
秋保の田植踊(宮城)
チャッキラコ(神奈川)
大日堂舞楽(秋田)
題目立(奈良)
アイヌ古式舞踊(北海道)

2010年記載

組踊
結城紬

2011年記載

壬生の花田植(広島)
佐陀神能(島根)

2012年記載

那智の田楽(和歌山)

2013年記載

和食;日本人の伝統的な食文化 正月を例として

2014年記載

和紙:日本の手漉和紙技術

2016年記載

山・鉾・屋台行事

2018年記載

来訪神(仮面・仮装の神々)

「絶滅危惧種」の後継者

神社仏閣の建築や修繕にたずさわる大工は、「宮大工」と呼ばれます。地域に根差した社寺を補修する宮大工から、世界遺産や国宝などの重要文化財に指定されている建造物の修繕にあたる宮大工まで、どこを拠点にして何を専門に活動しているのかはさまざまです。

また文化財を専門にしている宮大工は、全国各地を渡り歩いて修理をするので昔から「渡り大工」とも呼ばれています

文化財を守る宮大工は全国で100名ほどと推測されており、まさに「絶滅危惧職種」とも呼ばれているほどです。その理由は、

・後継者育成に最低10年
・知識性/専門性の高さが要求される
・「肉体労働/低収入」の負のイメージ
・神社仏閣の件数が少ないので活躍の場が少ない
・全体的な高齢化

これらの理由から、伝統技術を受け継ぐ後継者が減少しているのが現実です。

そのため、今回の無形文化遺産への登録は関係者の悲願でした。

「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」

提案書においては「建築当初の部材と、取り換える部材との調和や一体化を実現する高度な技術」としています。

また文化庁は、「無形文化遺産全般の重要性の認知向上に貢献できる好例。有形文化遺産である建造物との本質的な関係に光を当てた」と評価しています。

提案概要

1.名 称

伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術

2.内 容

木・草・土などの自然素材を建築空間に生かす知恵,周期的な保存修理を見据えた材料の採取や再利用,健全な建築当初の部材とやむを得ず取り替える部材との調和や一体化を実現する高度な木工・屋根葺・左官・装飾・畳など,建築遺産とともに古代から途絶えることなく伝統を受け継ぎながら,工夫を重ねて発展してきた伝統建築技術。

3.分 野

伝統工芸技術,自然及び万物に関する知識及び慣習

4.構 成

国の選定保存技術のうち以下の17件。

「建造物修理」,「建造物木工」,「檜皮葺・杮葺」,「茅葺」,「檜皮採取」,「屋根板製作」,「茅採取」,「建造物装飾」,「建造物彩色」,「建造物漆塗」,「屋根瓦葺(本瓦葺)」,「左官(日本壁)」,「建具製作」,「畳製作」,「装潢修理技術」,「日本産漆生産・精製」,「縁付金箔製造」

5.保護措置

伝承者養成,研修発表,技術・技能錬磨,記録作成,原材料・用具の確保等

6.提案要旨

○木工・屋根葺・左官・装飾・畳などの伝統建築修理の技術は,木・草・土などの脆弱な自然素材で地震や台風に耐える構造と豊かな建築空間を生み出し,法隆寺をはじめとする歴史的建築遺産に不可欠な保存修理においては,建築当初の部材とやむを得ず取り替える部材との調和や一体化を実現する高度な技術であり,棟梁を中心とする職種を越えた組織の下,伝統を受け継ぎながら,工夫を重ねて発展してきた。

○歴史的建築遺産と技術の継承を実現する適切な周期の保存修理は,郷土の絆や歴史を確かめる行事であり,多様な森や草原等の保全を木材,檜皮,茅,漆,い草などの資材育成と採取のサイクルによって実現するなど,持続可能な開発に寄与するものである。

○このような「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」のユネスコ無形文化遺産代表一覧表への記載は,法隆寺をはじめとする世界文化遺産となった木造建造物や,日本の建築文化を支える無形文化遺産の保護・伝承の事例として,世界の建築に関わる職人や専門家との技術の交流,対話が深められ,国際社会における無形文化遺産の保護の取組に大きく貢献するものである。

選定保存技術〈保存団体〉

今回登録が勧告されたのは、以下の17件(14団体)です。

(1)建造物修理〈文化財建造物保存技術協会〉
(2)建造物木工〈文化財建造物保存技術協会、日本伝統建築技術保存会〉
(3)檜皮葺ひわだぶき杮葺こけらぶき)〈全国社寺等屋根工事技術保存会〉
(4)茅葺かやぶき〈全国社寺等屋根工事技術保存会〉
(5)檜皮採取〈全国社寺等屋根工事技術保存会〉
(6)屋根板製作〈全国社寺等屋根工事技術保存会〉
(7)茅採取〈日本茅葺き文化協会〉
(8)建造物装飾〈社寺建造物美術保存技術協会〉
(9)建造物彩色さいしき〈日光社寺文化財保存会〉
(10)建造物漆塗うるしぬり〈日光社寺文化財保存会〉
(11)屋根瓦葺(本瓦葺ほんがわらぶき)〈日本伝統瓦技術保存会〉
(12)左官(日本壁)〈全国文化財壁技術保存会〉
(13)建具製作〈全国伝統建具技術保存会〉
(14)畳製作〈文化財畳保存会〉
(15)装潢そうこう修理技術〈国宝修理装潢師連盟〉
(16)日本産漆生産・精製〈日本文化財漆協会、日本うるし搔き技術保存会〉
(17)縁付えんつけ金箔きんぱく製造〈金沢金箔伝統技術保存会〉

これまでの経緯とこれから

 

2003年にユネスコが「無形文化遺産保護条約」を採択以降、2019年1月現在の締約国は178か国あります。

今回審議が始まる提案はこれまで2度提案されてきましたが、採択には至りませんでした。ただし昨年再提案が決定し、今月開かれたユネスコ政府間委員会で審議が開始されました

2003年ユネスコ総会において「無形文化遺産の保護に関する条約」が採択
2006年「無形文化遺産保護条約」発効
2009年「建造物修理・木工」として提案、未審査
2018年「伝統建築工匠の技」として再提案、先送り(不採用)
2019年2月25日:無形文化遺産保護条約関係省庁連絡会議へ再提案の決定
2020年3月末までにユネスコ事務局に提案書の提出・勧告

政府間委員会に対する審査結果の勧告

(1)「記載(inscribe)」:代表一覧表に登録することがふさわしい
(2)「情報照会(refer)」:締約国に追加情報を求める
(3)「不記載(not to inscribe)」:登録にふさわしくない

今回、政府間委員会が設置する評価機関(Evaluation Body)において(1)「記載」として勧告されたので、2020年12月14日に開催されるユネスコ政府間委員会(無形文化遺産保護条約政府間委員会)において審議・正式決定されます。

正式決定が確実とは言えませんが、これまで日本側が勧告した提案が否決されたことはないので、ほぼ確実であるとの見通しとされています。

関係者は今からお祝いの準備ですね♪

オススメ関連書籍

ユネスコ 世界の無形文化遺産

みんなが知りたい! 日本の「ユネスコ 無形文化遺産」がわかる本

宮大工の人育て

火天の城(Video)







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